在宅復帰を目的に病院(回復期)や老健施設に入院もしくは入所している方は、「家屋調査」を行い、家の状況把握・病前前の動作を把握し現在の病気や障害でどこまで行えて何に困るのかを評価・確認して安全に生活が行えるようにいろいろとアドバイスの提案をします。
ここでは、家屋調査で自宅を訪問した際にみておくポイントを説明していきたいと思います。
家屋調査とは?!
リハビリテーションが行う家屋調査(ホームアセスメントとも呼ばれる)とは、リハビリ職の観点からその人の生活環境を総合的に評価するものです。その目的は、病気や怪我あるいは、慢性的な健康状態や障害を抱えている人が、自立して安全に生活できるようにえるその方の能力を引き出せるような工夫や転倒の危険を防ぐようにアドバイスをすることです。
在宅復帰を目指す患者様が入所前もしくは入院してすぐに自宅へ訪問し、病前の体の変化と現在の身体状況を踏まえて評価を行います。出来るだけ早く在宅環境を知ることで、それに合わせてその人に合った安全に日常生活が送れるような動作方法の指導や動作練習を行っていきます。退院や退所する前に、回復期病院では担当のPT・OT・本人様で訪問し(私が働いている介護施設では、リハビリ職1名・相談員・ケアマネージャー・本人様)、実際に本人様に動作を行ってもらい必要な場所に手すりや踏み台等の提案をしていきます。
退院前や退所前は、本人様も一緒に行くため実際に動作を行ってもらいながら手すりの必要性や手すりの取り付け位置、椅子からの動作、トイレ、お風呂動作など福祉用具や自助具などの環境調整の提案だけでなく介護サービスも同時に検討していきます。介助が必要な場合は、ご家族様にも介護方法の指導を行います。
退院までにケアマネージャーや福祉用具専門相談員などと連携して手すりや足台の設置などを完了させておきます。
玄関
・靴の脱ぎはぎがスムーズにできるのか?立って履けない場合は、椅子を設置することを提案する場合が多いと思います。
靴べらで自分で履けるのか?靴下の着脱はできるのか?ソックスエイドなどの自助具を使用して履けるのか?
・段差があるのか(何段あって、段差の高さはどれくらいなのか?)?
・手すりがあるのか?
・玄関先は段差があるのか?車椅子の方の場合は、スロープを置けるスペースがあるか?スロープの長さはどうなのか?
・買い物など外出する方は、玄関先まで見る必要があります。玄関から門まで。門から外に出るときに段差はあるのか?そこまで出るのに道が整備されているのか?手すりはどうか?車椅子であればスロープが置けるのか?車椅子が通るのかなど確認しておきましょう。
上り框
最近のお家はバリアフリーのことも多いですが、多くの家では玄関に段差(上り框)があります。特に古い家は上り框の高さが高く40cm以上ある場合もあるので、1段足台を設置し、手すりの設置が必要かどうかを検討します。
手すりの長さの決め方
縦手すりの長さを考える時は、患者様に立ってもらい真っ直ぐ前に手を伸ばしてもらった時の床から手のひらの高さを計測しておき、それに上がり框の段差の高さを足した長さにします。
横手すりの高さは、その人の腸骨稜(いわゆるコシボネと呼ばれる)の高さになりますが、一般的な高齢者であれば約80cmと覚えておくとまず間違いないです。
※手すりの位置や長さなど不安な人は福祉用具の担当の方に相談するのも良いかと思います。
居間もしくはリビング
患者さんや利用者さんがどこでどのように過ごしていたのかをご家族や本人様に聴取しておく必要があります。
1日中ソファーで過ごしているや指定の席に床に座ってテレビを見ている人、食べるとき以外ベッドで過ごしている人など意外と過ごしている場所が同じ場所の人が多いイメージです。ずっと座りっぱなしの人はクッションの検討や立ち上がりやすいような高さの椅子を提案することが多いです。回転式や軽い椅子は、椅子が動いたりして転倒のリスクを上げてしまう可能性があるので転倒リスクが高い方は家族へ説明しその方にあった椅子の提案をした方が良いかと思います。
また、居間などにカーペットを敷いているお家も多く、それが原因で転倒する人も多いのでカーペットはとってもらったほうが良いかと思います。
また、飲み物を取りに行ったりする時の移動(歩行or車椅子)の際も狭くて通れない場所がないかなどを確認しておきます。料理が難しく独居の方は、配食サービスやヘルパーを入れるのか。自分で運ぶことができるか?まで評価する必要があると思います。
寝室
高齢の方は昔の慣習で床に布団を敷いて寝起きすることを好む方が多いです。床からの起き上がり動作と布団を押し入れに収納するのが障害や病気で難しい人も多いと思います。
多くの患者様は、退院後に介護保険でのレンタルを使って電動ベッドを設置します(要介護度によります)。ベッドからの起き上がりや立ち上がりができる場合は、電動ベッドにこだわる必要はないと思いますが、自宅のベッドで起きれるかの確認は必要です。布団の厚さや硬さなどで難しい場合もあるので確認・評価は行いましょう。
家屋調査では寝室に
- ・電動ベッドを置くスペースがあるか
- ・枕の向きをどちらにするか(テレビが見えるか)
- ・起き上がれる方向はどちらからするのか
などを検討しておきます。
ちなみに電動ベッドは、シングルサイズの場合 幅約100cm×長さ約200cmのスペースがあれば設置できます。
メジャーなどで設置可能なスペースがあるか確認します。
トイレ
トイレまでの動線の確認は必須です。居間やリビングからトイレまで、寝室からトイレまでの導線、移動がスムーズに行えるか動作の確認が必須です。
また便座からの立ち上がりができるかどうかの確認も行いましょう。市営のトイレはちょっと低いこともあるので手すりが設置されてても立てない場合があります。そのような時は、据え置き式の便座で高さ調整をしましょう。
トイレの手すりは便座から約20〜30cm前方に縦手すりがあると、それを掴んで立ち上がりがしやすくなります。これも先ほどの玄関の要領と同じで、座った時(椅子の高さ40cm程度)に手を真っ直ぐ前に伸ばした時の地面からの高さと、立った状態で同じ動作をした時の高さを計測しておけば、自然と必要な手すりの長さが分かります。※家屋調査時に実際に動作を確認し、自然と握る場面に手すり設置するのも良いかと思います。
よくL字型の手すりがトイレに取り付けてあるのを見ます。トイレの横手すりでは座位保持がしにくい、あるいは座位が不安定な方が使用します。
自宅に帰れる方は座位保持がしっかりできる方も多いので、そういった方にはL字型の手すりを取り付けなくても縦手すりだけでも充分な場合もあります。
また、トイレットペーパーの位置や流す動作も確認しましょう。排便後に肛門まで手が届くかも確認しましょう。届かない方も多いので、自助具を使用しできるかどうかの評価も行いましょう。
お尻拭き棒は、使用後に末端を押してトイレットペーパーを外すのですが押し力がない人は難しかったです。一度評価して試してみるといいかと思います。
自宅トイレは狭いところが多いので、無駄な手すりを設置してしまうと狭くなり帰って動作がしにくくなる場合もあるので、実際に本人様の動作を見て手すりの提案をし無駄な手すりを設置しなようにしましょう。
他にも、夜間は覚醒せず出てしまう方はオムツで対応していたりするため自分でオムツを履けるのか?パッドやオムツ交換ができるのか?など確認も必要です。
夜間のみP-トイレを使用する場合は、ベッドからP-トイレへの夜間帯の移乗動作の確認も入院中(入所中)に行っておきましょう。
洗面所
洗面所では、着替えを立って行えるかを前もって確認しておき、必要であれば手すりや椅子の設置スペースがあるか検討します。
車椅子で移動する方の場合は、車椅子から座ったままだと洗面所に手が届かない場合がほとんどなので、洗面をどうやって行うと良いか本人・家族と相談します。
風呂場
お風呂はデイサービスやデイケアを利用して入る方も多いです。自宅で入る方は風呂場は滑りやすく転倒リスクも高いので福祉用具や手すりが必要になるケースが多いです。
風呂場では、
- 浴室内の移動
- 浴槽のまたぎ動作
- 洗体動作
- 浴槽内の着座・立ち上がり動作
がスムーズにできるように手すりの設置や福祉用具の導入を検討します。
またぎ動作には
・座ってまたぐ
・立ってまたぐ
この2つの方法があります。入院中にしっかり評価をしておきましょう。座ってまたぐ場合は、バスボードなどの福祉用具を利用します。
入浴とトイレの福祉用具関連品は直接肌に触れるため衛生的に問題があり、介護保険でレンタルすることができません。
浴槽内での着座・立ち上がりには「縦」手すりを必要とする方が多いです。
浴槽内の排水溝の位置を確認し、その逆側に患者様が座った時に手の届く位置に縦手すりの取り付けを検討します(排水溝の上には基本的に座らないため)。手すりも取り付けが簡単なものもあるので色々試してみるのもありかと思います。病院であれば、お風呂動作できるようにリハビリ室にあると思うので実際に何度も試して、本人様の行いやすい方法を自助具や福祉用具等活用して模索してみてください。
浴槽内に座り込んでしまうと手すりがあっても立ち上がれない方は、浴槽台という福祉用具を浴槽の中に沈めてその上に座るようにして入浴することになります。
こういったタイプの商品は、吸盤で床にくっついてお湯の中に沈めても浮いてこない仕組みになっています。
吸盤ではなく、自重で浮いてこないタイプが多く利用されているのではないかと思います。
しかし、この浴槽台を使用すると全身湯船に浸かれず、半身浴の状態になることに注意が必要です。
また、「浴槽台自体の掃除が大変だ」という声も聞かれます。
できれば使わずに入浴できると理想です。
洗体動作や着替え
洗体動作では、足先を洗えない方がとても多いです。整形では、禁忌肢位や関節に制限などがある際に屈めなかったり、呼吸器疾患では同じ動作の繰り返しや肩挙上姿勢を長時間行うことが難しいため自助具の活用が必須になります。
・ループ付きタオル
・柄付きブラシ
・足マット
など福祉用具や自助具を活用して、自宅で入浴する方の場合、自分で洗体動作が可能か評価しておく必要があります。介護者が介入する場合は、どのように行うのかなど分かりやすく説明できるように紙面で残したり面会時に介助方法指導を行う必要があります。
また、着替えも行えるのかも評価しておく必要があります。
導線の確認
毎日の生活の中で、トイレ・居間やリビング・洗面所など必ず通る場所の導線は評価しましょう。部屋の出入り口の敷居(段差)があるか?廊下や導線上の移動はできるか?車椅子でも方向転換出来のか?扉の開閉なども行えるのか評価が必要です。敷居は、車椅子や歩行器を使った移動では障害になるのでスロープなどで段差解消するのかなど検討が必要です。
その方にあった生活スタイルを聴取し評価しておく
大まかにみるべきポイントは上記に述べましたが、その方の生活スタイルや家屋状況で評価するポイントも変わってきます。家族や本人様に事前に聴取できるところは聞いてみたり、洗濯物や料理、買い物など細かく聞ける部分は聞いて、実際に動作の評価を行ってみるといいと思います。家族がどこまで介入するのか?サービスを使うのか?いろんな角度で提案をしていく必要があります。
また、外出や外泊時に車の乗り降りができるのかなど聞かれることもあるので、評価して必要であれば動作方法も家族へ伝えるといいかと思います。
まとめ
在宅復帰の方は、独居なのか家族と同居するのかの確認は必須です。家族と同居する際はどこまで家族が介入できるのか?どこまでなら介助できるのか?など確認しておくことがスムーズに在宅復帰出来ると思います。できない場合は、介護度にもよりますがサービスをどこまで使うのか?など検討が必要です。また事前に話を聞いて問題がありそうな場所など把握しておくとスムーズに評価できると思います。病院や施設では、ある程度たたき台ができているところも多いので、それを踏まえ患者さんや利用者さんの生活スタイルにあった評価も行うことが重要です。
・玄関
・トイレ
・寝室
・居間もしくはリビング
・導線
・浴室・脱衣室
・洗面所
・キッチン
・その方の生活スタイルに合わせて必要な場所
家屋調査に行く際は、
・何枚か用紙とバインダー:間取り図の記載や重要事項の記載、メジャーで測定した箇所の記入
・カメラ(充電はしておく):上記の箇所(部屋全体、段差部分など)やその方の生活スタイルに必要な箇所などを撮影し書類作成に使います。
・メジャー:段差の高さや手すりの位置、導線の長さ、椅子の高さなど必要な場所の測定
出来る評価は家屋調査前に行っておきましょう。
簡単ではありますが、是非参考にしみてください。