皆さんも聞いたことがあることわざ「笑う門には福来る」!
笑いの絶えない人の家には、自然と幸福が訪れる。 goo辞書より
正月によく使われるような縁起の良いことわざで座右の銘として人気もあります。辛いことや苦しいこと、悲しいことがあっでも笑って過ごしていれば自然と幸せがやってくることを表しています。ポジティブなニュアンスで使われることわざです。近年では、笑うことが心身に良い影響を与えると証明する研究も多く行われ報告されています。ここでは笑うことがどう影響を与えているのかを紹介できればと思います。
笑うことで得られる効果
笑うことが人体に良い影響を及ぼしていることを証明する研究が、欧米を先駆けに日本でも実施されています。日本においても報告されきた笑いの効果を身体面・精神面の二方向から概観し、医療や看護の場で笑いを用いる有効性を提示することを目的として、文献考察を行っています。
生活習慣病である糖尿病や高血圧などのリスクが低くなる可能性が高い。
笑う頻度が少ない人は高血圧や糖尿病が発生しやすく可能性が高くなることで、その結果、心筋梗塞、脳卒中等の循環器疾患が引き起こされて、要介護や死亡の原因になる可能性が考えらると述べられています。
2010年以降における生活習慣病に対する笑いの介入研究を抽出した(表 3)。60歳以上の地域住民27人を対象として、 無作為に介入群と対照群に分けて、介入群には1回120分の笑い療法(落語、漫才等 の鑑賞と軽度の運動を組み合わせたプログラム)を10週間実施した結果、介入群は対照群と比べて、糖尿病のコントロールの指標であるヘモグロビンA1c(HbA1c)が有意に改善した(Hirosaki et al., 2013)。 また、骨密度及び自覚的健康感にも改善がみられた。したがって、笑いは糖尿病のコン トロールを長期的に改善させる可能性が示唆された。さらに、笑いの糖尿病コントロー ルに対する効果については、他の対象者に おいても同様の結果が得られている(大平, 他, 2013)。一方、笑いが初期の動脈硬化の 指標である血管内皮機能を改善させる可能 性について、健常者17人を対象とした研究 では、60分間コメディビデオを視聴した後 はドキュメンタリービデオを視聴した後に 比べて有意に血管内皮機能が改善すること が報告されている(Sugawara et al., 2010)。
(※1)
笑いと循環器疾患(心筋梗塞及び脳卒中)発症との関連を前向きコホート研究で検討した結果、週に1回以上声を出して笑 う人に比べて、週1回未満、月1回以上 笑う人の性・年齢調整発症リスクは1.63倍 (95%信頼区間:1.08-2.39)、ほとんど笑 わない(月1回未満)人の性・年齢調整発症リスクは1.35倍(95%信頼区間:0.52- 2.85) であり(Sakurada et al., 2020)、 笑いの頻度が少ない人において循環器疾患が発症しやすいことが示唆された。さらに、循環器疾患の危険因子である高血圧、糖尿病との関連についても横断研究、前向きコホート研究で報告されている。
Circulation Risk in Communities Study(CIRCS)に参加した茨城県の地域 住民男女1,441人を対象として、毎年健診時の血圧を4年間追跡調査した結果、日常生活における声を出して笑う頻度がほぼ毎日の男性では、2010年の収縮期/拡張期血圧が平均132.2/77.0mmHg、2014年が 平均133.0/76.6mmHgとほとんど変化がなかったのに対して、笑う頻度が週1回未満の男性では2010年が平均130.7/75.9mmHg、 2014年が平均134.1/78.9mmHg と4年間において収縮期血圧、拡張期血圧がともに有意に上昇していた(Ikeda et al., 2020)。一 方、女性ではこれらの関連はみられなかった。
日常生活における声を出して笑う頻度と糖尿病の有病率との関連をみた結果、ほぼ毎日声を出して笑う人に比べて、週に1~5回程度笑っている人の多変量調整(性、年齢、肥満度を調整)糖尿病有病リスクは1.26倍(95%信頼区間:0.97 -1.65)、笑う頻度が週1回未満の人は1.51 倍(95%信頼区間:1.08-2.11)であった (大平, 他, 2013)。また、男女別にみると、 男性に比べて女性の方が笑いと糖尿病との関連がみられた。さらに、この集団を平均 5.4年間追跡調査し、笑いの頻度と糖尿病発症との関連を前向きに検討した結果、男女ともに笑いの頻度と糖尿病発症との有意な関連がみられ、ほぼ毎日声を出して笑っている人に比べて、週1回未満の人は多変量調整糖尿病発症のリスクが1.84倍高かった。以上の結果を踏まえると、笑いの頻度が少ない人では、高血圧、糖尿病が発症しやすくなる可能性があり、その結果、心筋梗塞、脳卒中等の循環器疾患が引き起こされて、要介護や死亡の原因になる可能性が考えられる。(※1)
脳の働きが活性化して認知機能低下を予防
笑うことで、脳内の記憶を司る器官である「海馬」が活性化されます。また、脳の血流も良くなりリラックス状態が促され、脳内のアルファ波が増大します。集中力アップや認知症予防への効果が期待できます。
「認知機能低下あり」の頻度をほぼ毎日声を出して笑う人と比較した結果、笑う頻度が少ない人ほど認知機能低下ありのオッズ比が高く、ほとんど笑わない(月1回未満)人 の性・年齢調整後の認知機能低下を有す るリスクは2.15倍(95%信頼区間、1.18- 3.92、p=0.01)であった。また、笑いの頻度との関連がみられた生活習慣のうち、従来から認知機能との関連が知られている喫煙の有無、うつ症状の有無を調整した上で 笑いの頻度と認知機能との関連を検討しても、ほぼ同様の傾向がみられた。(※1)
心身のリラックス効果がある
笑うと脳内にリラックス効果をもたらす物質が分泌します。幸せホルモンと呼ばれる「セロトニン」や不安感やストレスを軽減してくれる「ドーパミン」、愛情ホルモン「オキシトシン」。幸福感や痛みを軽減する「エンドルフィン」など心身をリラックスさせる効果があります。
文献でも笑うことで副交感神経が上昇(副交感神経は寝ている時や休息、リラックスの時に優位に働く神経)しリラクゼーションに有用であると報告もされています。
笑いが身体的指標に及ぼす効果については、ストレス関連指標や自律神経系に及ぼす効果が主に検討されている。若年健常 者15人において笑いのビデオ視聴後に交感神経系の指標であるクロモグラニンA値 が、笑いのないビデオ視聴後に比べて低くなっていた(Toda and Ichikawa, 2012)。 また、心拍変動を用いて自律神経系機能 を評価した研究では、健常者72人におい て、6分間の偽笑い(面白くなくても笑う という行動をとってもらう)及びユーモア ビデオ視聴による自然な笑い後はどちらも 介入後に副交感神経機能の上昇、すなわち心身のリラクゼーションに有用であることが確認された(Law et al., 2018)。同様 に、笑いヨガとコメディ映画視聴では、どちらも唾液中コルチゾール値の低下がみられた(Fujisawa et al., 2018) さらに、 大学生90人を対象とした研究では、ストレス負荷後に5分間笑い声を聴取することによって、副交感神経機能の上昇がみられた (Fujiwara and Okamura, 2018)。したがって、笑いの心身のリラクゼーション効果については、何を理由にして笑うかということよりも、笑うという行動が大事であり、 しかも、自分が笑っていなくても、笑い声を聴いただけでも効果が得られる可能性が考えられる。 (※1)
幸福感と鎮痛作用がある
心身のリラックス効果でも述べましたが、笑うことで脳内に分泌される物質「エンドルフィン」と言う幸福感や痛みを軽減させる効果がある物質が出ると言われています。そのため、文献でもがん治療で笑うことを取り入れた結果痛みも少なくなる傾向が見られたと述べられています。笑いは長期的に免疫系や消化器系に影響を及ぼす可能性が考えられていますが、いずれにしてもこれらの効果のメカニズムについてはまだ明らかではないので今後の研究結果に期待したいと思います。
放射線療法を受ける予定の乳がん患者37人に対して、放射線治療中に1回60分間の笑い療法(笑いの知識習得、笑い体操等)を週 2回8週間実施した結果、笑い療法を受けた人はそうでない人に比べて、8週間後の放射線腫瘍医によって評価された放射線皮膚炎の程度が軽度であった(Kong et al., 2014)。また、痛みについても少ない傾向がみられた。さらに、過敏性腸症候群で外来通院中の患者60人を対象として、抗不安剤による治療群と1回60分の笑いヨガ (Laughter Yoga)を7回実施する群に分けて比較した結果、笑いヨガを行った群は対照群及び抗不安剤投与群に比べて症状がより改善する傾向がみられた(Tavakoli et al., 2019)。これらの結果から、笑いは長期的に免疫系や消化器系に影響を及ぼす可能性が考えられるが、いずれにしてもこれらの効果のメカニズムについてはまだ明らかではない。 (※1)
健康に長生きする可能性が高い(介護認定する可能性が低くなる!)
日常生活において声を出して笑う頻度がほとんどない中高年者(40歳以上の3.3%、65歳以上の 7.3%)は、ほぼ毎日笑っている人に比べて(理由は何であれ)3~5年後に亡くなる可能性が高いということがほぼ言えそうである。また、65歳以上では、笑う頻度がほとんどない人は、3年後に要介護認定になる可能性も高く、日常生活で笑うことが 将来の寿命に加えて、健康寿命にも関連することが明らかになった。さらに、認知機能が正常な人を1年間経過観察した結果、笑いの頻度が少ない人からより認知機能低下症状が発症しやすいことが確認され、ほぼ毎日声を出して笑う人に比べ て、ほとんど笑わない(月1回未満)人の 性・年齢調整後の認知機能低下症状の出現リスクは3.61倍(95%信頼区間、1.46-8.91、 p=0.005)であった。したがって、笑いの 頻度が少ないことは認知機能の低下と強く関連することが示唆され、前述の日本老年 学的評価研究(JAGES)でみられた笑い の頻度が少ない人から要介護になりやすいという結果を支持する結果であったと考える。 (※1)
他にも・・・
精神的なうつ症状や不安など心理的な健康にも改善が見られたと報告されています。睡眠の質も効果があると報告されています。
笑いがうつ症状、不安、生活の質(QOL) 等の心理的健康に及ぼす影響については、健常者や患者を問わず、そして年齢を問わず多くの報告がある。健常学生を38人を対 象として、笑いヨガの効果をみた研究では、 週2回1カ月間の笑いヨガへの参加後に対 照群と比べて全般的な健康感、特に身体症 状、不安・不眠、うつ症状の改善がみられたことを報告している(Yazdani et al., 2014)。同様に、地域住民高齢者(Ghodsbin et al., 2015; Ko and Youn, 2011; Shahidi et al., 2011)においてもうつ症状、不安、睡眠の質に関する笑いの効果が報告されている。また、がん患者(Kimet al., 2015;Morishima et al., 2019)、パーキンソン病患者(Memarian et al., 2017)、 人工透析患者(Heo et al., 2016)、うつ症状を有す る者(Bressington et al., 2019)、ナーシン グホームの入居者(Low et al., 2014)を対象としても、不安、うつ症状、睡眠の質等に関する笑いの効果が報告されている。
笑いの うつ症状、不安、睡眠の質への効果についてメタ分析が行われた結果、いずれも笑う ことによる症状改善への有用性が明らかに されている。さらに、特筆すべき点として、 メタ分析の結果、ユーモアを用いた笑いよ りもユーモアを用いない笑い(笑いヨガ等) の方がうつ症状の改善に有効であるとい う結果が示された(van der Wal and Kok, 2019)。これは、うつ症状を有する者の場合、 通常のユーモアを用いた笑いでは笑えない 場合も多いが、笑いという行動をとること は可能である。したがって、面白いから笑うのではなく、笑うから面白くなる(楽しくなる)ということであり、笑うという行動がうつ症状の改善に重要ということを示唆する結果であったと考える。
笑いと身体心理的健康・疾病との関連についての近年の研究動向 ―2010年~2020年の観察研究、介入研究を中心に― 笑い学研究27(2020.8) 大平 哲也 (※1)
笑顔で人間関係もうまくいく?!
病院や介護施設で15年ほど働いてきて、職員と患者様・利用者様の関係性などもみてきました。笑顔で対応したり接したりしてコミュニケーションをとった方が、相手も笑顔がみられるし関係性も良好です。
忙しくて険しい顔をしている方には、やはりいい印象もなく、その方の不満などをよく聞くことが多いです。また、拒否や不穏の原因になっているケースが見てて多い気がします。実際、自分が逆の立場でいつも険しく眉間にしわを寄せているような方と話すとなるといい印象がなくあまり接したくないですよね。
笑顔は相手に安心感や親しみを与えると言われています。好印象を与えコミュニケーションを円滑にしてくれます。笑顔はその場の雰囲気も明るくしてくれます。真顔でいると、敵意や拒絶されている感じがしますよね。職場のスタッフに真顔で話を振られるとちょっと構えちゃいます。
笑顔=ポジティブな印象で、こっちまで気分が良くなり安心感があります。人と接するような職業の方は是非、笑顔で対応するように心がけてみてください。
まとめ
笑うことで、心身機能に良い効果があると研究結果でも報告されています。
・生活習慣病のリスクを下げる
・脳の働きが活性化し脳機能低下を防げる
・心身のリラックス効果
・幸福感と鎮痛作用がある
・健康に長生きする可能性が高い
心身機能に良い効果をもたらすだけでなく、笑顔で相手に接することで人間関係も良好になる可能性は高いです。生活の中でも楽しいことや笑顔になれるようなことを過ごして人間関係のトラブルを少しでも回避して、幾つになっても快適に過ごしましょう!
少しでも参考になれば嬉しいです!